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赤穂の昔話・第36話「横谷の八畳敷き」

 2022年05月21日 
 塩屋から木津へ越える山道を一人の旅人が歩いていると、横谷で真昼だというのにまわりがだんだん暗くなり、闇夜になってしまいました。

 向こうの方に明かりが見え、小さなあばら家が一軒だけ建っていました。中をのぞくと囲炉裏に老人が座っていました。

 「寒かったら、こっちへ来て、あたれや」

 喜んで中へ入った旅人に、老人は温かいお茶をいれました。お茶を飲んだ旅人はだんだん眠くなりました。

 旅人が寝てしまったのを見届けた老人は自分の金玉袋を引っ張り出しました。一畳、二畳、三畳……七畳と広がり、八畳の広さになると、バサッと旅人にかぶせて包み込んでしまいました。金玉袋が元の形に戻ったときには旅人の姿はありませんでした。

切り絵・村杉創夢


 その山道では、その後も人がいなくなることが続き、「化け物にさらわれた」との噂が立ちました。

 ある日、一人の若者が、どうしても山道を通らなくてはならなくなりました。やはり、あたりが急に暗くなり、若者は明かりのついた一軒家へ行きました。

 「寒かったら、こっちへ来て、あたれや」

 若者は囲炉裏のそばに座りました。眠くなってきて横になりましたが、山に入る前に母親がいれてくれた苦いお茶を飲んでいたため、意識はしっかりしていました。

 若者が寝入ったと思った老人は、金玉袋を引っ張り出し、一畳、二畳、三畳……と広げていきました。

 七畳半まで広がったとき、若者はパッと目を開き、燃えている薪をつかんで風呂敷のように広がった金玉袋の真ん中に突き刺しました。老人は「ギャーッ」と声を上げ、あばら家も、囲炉裏も一瞬のうちに消えてしまいました。

 その後、横谷の奥に薪を取りに行った村人がお腹の下を焼かれて死んでいる大きな古狸を見つけました。今も横谷には、「八畳敷き」といわれる広い岩場があります。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話』・「横谷の八畳敷き」より)
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掲載紙面(PDF):
2022年5月21日号(2462号) 3面 (8,115,688byte)
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