赤穂の昔話・第32話「枯れ尾花」
2022年01月29日
切り絵=村杉創夢
周世坂には「高ぼそ」が出るという噂があり、芸人は「どうぞ今夜は何もないように」とおびえながら坂を登って行きました。
とにかく、早く周世坂の地蔵さんのところまで行こうと、一目散に走り、地蔵さんに手を合わせ、やれやれと前の方を見ると、白いものがつっ立って、手を振っています。
「アッ!」
と、思わず声が出て、動けなくなってしまいました。
あたりは暗く、誰一人として山道を通っていません。有年に引き返すことも、もうできません。白いものは、大きくなったり、小さくなったりし、相変わらず芸人に手を振っています。
芸人は土下座して、
「わしは何も悪いもんではない。芸人なんや。このとおり三味線を持っている。三味線を弾いてやるからこらえてくれ」
と、死にものぐるいで、ピンピン弾きました。
でも、白いものは少しも動きません。じっとこちらを見ています。
芸人はもう必死で、
「金が欲しいなら、ここに持っている金を全部やる。三味線が欲しいなら持っていけ。命だけは助けてくれ」
声を振り絞って頼みました。けれども、その白いものは何とも言わず、やっぱりつっ立ったままです。
芸人は動くこともできず、地面に頭をつけたままで、生きた心地はしません。
そうこうしているうちに、東の空が白んできました。芸人は恐る恐る顔を半分あげ、前を見ると、なんと、そこにつっ立っていたのは、かやんぼの枯れた穂でした。芸人は腰が抜けたように、そこに座りこんでしまいました。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「枯れ尾花」より)
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掲載紙面(PDF):
2022年1月29日号(2448号) 3面 (7,614,935byte)
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