創作きりえ昔話・潮吹き穴と赤穂の塩(六)
2016年06月25日
為吉は、塩岩のことは、まったく知らなかったが、潮吹き穴から水を吹き出さなくなってから、だんだん塩辛さがなくなったという話を聞いて、もしかしたらと言う気持ちで、崩れ落ちた岩や砂や土を取り除いてみたのだ。それにしても、この三年間は、長かった。見えない力にひきつけられて、洞窟を掘り出したのだ。何度、やめようと思ったことだろう。大きな石を砕くのに何日もかかった。その砕いた石をさらに砕く。小さくなった石でも重い石は、運んでいくとき、肩に食い込んで辛かった。海岸の凸凹な岩の上を歩くのもつらかった。
だけど、やめることは出来なかった。お前にしかできないことだと、背中を押されている気がしていた。
そして、海が塩辛くなると、するとどうだろう、いなくなっていた魚が、戻ってきたのだ。魚だけでなく、貝もとれるし、エビやタコやイカまでとれるようになってきた。
漁師の為吉は、毎日、漁に出た。そして、たくさんの魚を釣りあげることが出来たし、砂浜を掘って貝をあつめたりして、町で売ることができたのだ。やはり塩が少なくなってしまったので、海から魚や貝がいなくなってしまったのだ。塩辛くなると、魚も貝もみんな、戻ってきたのだ。
他の漁師たちも、魚がとれるようになって、喜んでいた。魚がとれるというので、村は以前の元気さを取り戻し始めた。(作・切り絵 村杉創夢)
* * *
▽村杉創夢=30歳ごろから趣味の切り絵を始め、歳時記や風景を題材に通算40回の個展を開催。自宅に「村杉きりえギャラリー」を開設し、オリジナルの物語に切り絵を組み合わせた「創作むかしばなし」の制作にも取り組む。東京都町田市在住(赤穂市出身)、71歳。
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掲載紙面(PDF):
2016年6月25日(2190号) 3面 (11,001,520byte)
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[ 赤穂の昔話 ]
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