赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(上)
2021年11月11日
「さあ、また浜(塩田)の仕事がしんどなるど」
三崎新浜村(現在の御崎)の庄屋をつとめる安左衛門さんは、梅雨明けの庭に立って、入道雲をながめながらいいました。三崎新浜村は、安左衛門さんが高砂や姫路から、塩つくりの上手な人たちを引き連れてつくった村でした。
安左衛門さんが入道雲をながめていると、その雲がだんだん仏様の姿にみえてきました。
「ああ、昨夜の夢にでてきた仏様に、よう似た雲やなあ」
安左衛門さんは、二、三日前から毎晩、仏様の夢をみていました。昨夜は、仏様が波の上に立っている夢でした。
「こりゃあ何かあるど。一ぺん、海へ行ってようすをみといたほうがええど」
安左衛門さんは、大塚の海岸まででかけていきました。
大塚の海は静かで、海岸では漁師が網をほしたり、つくろったりしていました。庄屋さんの姿がみえると、あちこちから大声であいさつがありました。安左衛門さんは、ニコニコと笑いながら
「よう精がでますなあ。景気はどないやあ」
と、話しかけました。そして
「実はなあ、このあいだから海で仏様に逢うた夢ばっかりみるんじゃが、何か変わったことはなかったかな」
と聞きました。しばらくして、一人の漁師が、
「おら、このあいだ、この沖で釣をしていたとき、海の底で何かピカピカ光るものをみたぞな」
と、答えました。
「そりゃあどうもおかしい。ひょっとしたら仏様が沈んどるかもしれんな。どうじゃ、みんなで網をひいてみてくださらんか。お礼は塩十俵でどうじゃろな」
「礼なんかどっちでもええがな。とにかく網をひいてみまっさ。なあみんな」
頭をつとめる漁師は、安左衛門さんの頼みを引きうけました。(つづく)
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2021年11月13日号(2438号) 2面 (10,791,566byte)
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