赤穂の昔話・第34話「竹筒で塩を作る人を見た」
2022年03月19日
切り絵・村杉創夢
そこは「猪壺谷」という小さな谷間の平地で、たくさんの男や女、子供たちが、竹筒のようなもので海水を汲んで、これをリレーのように手わたして、奥の谷間に送っていました。
「ありゃあ、一体、何しよんやろ」
漁師は不思議に思いながら見ていました。あまりにもたくさんの竹筒が運ばれるので、だんだんうすきみ悪くなりましたが、野次馬根性も手伝って、舟を岩かげに入れて、丘の上へ登り、その人たちのしぐさをのぞいてみました。
すると彼らは、猪壺谷の谷間の平地に、ちょうどお墓の竹の花筒のようなかっこうに切った竹筒に、海水を一杯入れて、すき間もないほど立て並べていました。大人たちは、ぼそぼそと、「海水が満ちたり引いたりするのは、太陽や月の力によるものだ」というような意味の歌をうたいながら、忙しく働いていました。
漁師はたまりかねて、そこへ出ていき、
「おまはんら、何しよんどな」
と、聞きました。
皆だまって顔を見合わせていましたが、一番偉い人らしい老人がやって来て、漁師にていねいに挨拶して、
「私らは、ここで塩を作らしてもろとります。こうして何日か日に干しますと、竹筒の中に氷砂糖のようなシオコリができます。これは、私らの仲間の非常用の塩で、できあがった塩は、国中の仲間に配給するのです。買うた塩は、包んで持っているうちに溶けて無くなってしまいます。私らは山の中で生活しておりますので、ミチ(塩)の大きな結晶が必要なのです。私が、仲間のミチを作る、『ミチノカミ』です。毎年来ますので、よろしうお願いします」
と、話してくれたそうです。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「竹筒で塩を作る人を見た」より)
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2022年3月19日号(2455号) 2面 (10,554,762byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ 赤穂の昔話 ]
「昔話末永く語り継いで」切り絵作家・村杉創夢さん 2022年10月30日赤穂の昔話・第38話「尼子山落城」 2022年10月29日赤穂の昔話・第37話「きんこん坊主」 2022年07月16日赤穂の昔話・第36話「横谷の八畳敷き」 2022年05月21日赤穂の昔話・第35話「大蛇と入電池」 2022年04月29日赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(下) 2022年03月12日赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(上) 2022年02月12日赤穂の昔話・第32話「枯れ尾花」 2022年01月29日赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(下) 2021年11月27日赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(上) 2021年11月11日赤穂の昔話・第30話「とんぼ塚」 2021年10月30日赤穂の昔話・第29話「妙道寺の阿弥陀さま」 2021年08月28日赤穂の昔話・第28話「猫岩の狐」 2021年07月31日赤穂の昔話・第27話「蛸の足うまいか」 2021年07月17日赤穂の昔話・第26話「熊見川の由来」 2021年06月27日
コメントを書く