赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(下)
2022年03月12日
切り絵=村杉創夢
これをみた村の男たちは
「負けるもんか。きたら、やっつけてやる」
「たたきのめしてやるぞ」
「わしたちの大事な米だ。悪党なんかにやるものか」
と、口ぐちにさけび、土手のかげにかくれて、待ちかまえていました。緊張で喉がカラカラにかわいてきました。
ところが、悪党たちは川の向こうまでやってきて、そこで止まってしまいました。村の男たが、耳をすましていると、向こう岸から、
「痛い、痛い、ああ、腹が痛い」
「ああ、腹が痛くて死にそうだ」
という声が聞こえてきます。村の男たちは、何が起こったのか見当もつきません。
そのうち、
「うーん、うーん、痛い、痛い」
という声を残して、悪党は這うようにして引き返していきました。
夜が明けました。悪党と戦にならずにすんで村人は大喜び。さっそく、村の稲刈りをしました。刈り取った稲をかついで、家に帰ろうとしたお婆さんは、あまりにも稲が重いので、お地蔵さまの前で一休みした時です。
ふと、お地蔵さまのほうをみますと、石の地蔵さんのおなかのところがはがれて、草のうえに落ちていました。お地蔵さまは、悪党に腹痛をおこさせて、退散させてくれたのです。
このことがあってから、村の人はもちろん、近郷近在の人びとが、お地蔵さまに願いごとを頼みにきました。お地蔵さまは、もっともと思われる頼みごとは、かなえてくれました。ところが、願いごとがかなうたびに、お地蔵さまの耳が落ちたり、お尻が欠けたりしていきました。
それから百年もすると、お地蔵さまのからだは欠けていって、とうとうなくなってしまいました。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話』・「ととまの地蔵」より)
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2022年3月12日号(2454号) 2面 (7,716,594byte)
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