赤穂の昔話・第15話「蟻無山」
2020年06月06日
来る日も来る日も大勢の村人が千種川の磧石を背負い、山の上まで運びました。磧石は重く、山の上までの道は急でした。
真夏の暑い日のことです。一人の村人が重い石を背負い、いつものように、ひいひいと息せききって登っていました。ふと、下を見ると、蟻の行列が前を横切っているのが目に入りました。
「足をおろせば、何百匹もの蟻が踏みつぶしてしまう」と思った村人は、とっさに蟻の行列を避けようとしましたが、体がふらついて倒れてしまいました。しかも、背負っている石が重たくて、なかなか起き上がれません。
「この横着者めが!」と役人が村人を怒鳴りつけ、鞭で繰り返し打ちつけました。村人の体には幾筋ものミミズ腫れができ、それが破れて血が流れ出ました。
村人に助けられた蟻たちは仲間を呼び寄せ、一斉に役人の足に這い上り、ところかまわずチクリ、チクリとかみ続けました。役人は「イタッ! イタイ、イタイ」と鞭を放り出して逃げていきました。
その日の夜、蟻たちは相談しました。
「私たちがこの山にいると、また同じことが起こるだろう。心やさしい村人が鞭で打たれるのは、もう見たくない。よその山へ引っ越したらどうだろう」
「それがよい。そうしよう、そうしよう」
それからというもの、この山には蟻が一匹もいなくなりました。そのため、村人たちはこの山を「蟻無山(ありなしやま)」と呼ぶようになりました。
『播磨鑑(はりまかがみ)』という江戸時代に書かれた本には、蟻無山の土を庭にまくと、庭にも蟻がいなくなる、と書いてあります。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第一集』・「蟻無山」より)=切り絵・村杉創夢
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2020年6月6日(2373号) 2面 (9,147,827byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ 赤穂の昔話 ]
「昔話末永く語り継いで」切り絵作家・村杉創夢さん 2022年10月30日赤穂の昔話・第38話「尼子山落城」 2022年10月29日赤穂の昔話・第37話「きんこん坊主」 2022年07月16日赤穂の昔話・第36話「横谷の八畳敷き」 2022年05月21日赤穂の昔話・第35話「大蛇と入電池」 2022年04月29日赤穂の昔話・第34話「竹筒で塩を作る人を見た」 2022年03月19日赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(下) 2022年03月12日赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(上) 2022年02月12日赤穂の昔話・第32話「枯れ尾花」 2022年01月29日赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(下) 2021年11月27日赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(上) 2021年11月11日赤穂の昔話・第30話「とんぼ塚」 2021年10月30日赤穂の昔話・第29話「妙道寺の阿弥陀さま」 2021年08月28日赤穂の昔話・第28話「猫岩の狐」 2021年07月31日赤穂の昔話・第27話「蛸の足うまいか」 2021年07月17日
コメントを書く